大唾液腺である顎下腺からは口腔底部にワルトン管が、耳下腺からは頬粘膜部にステノン管が開口しており、どちらにも石ができて詰まってしまうことがあります。詰まると痛みを伴ったり、食事の時に顎が腫れる、ほっぺた(耳の周り)が腫れるといった症状を繰り返します。いずれも一時的には内服薬や軟膏を塗ったりして症状緩和に努めますが、根本的には石を排出するか唾液そのものが流れないようにする唾液腺切除を行います。唾石症をきっかけとして、カルシウムの代謝異常やシェーグレン症候群といった膠原病が発見される場合もあります。
発熱と特徴的な両側の耳下腺(耳の周りにある唾液腺)の腫れが認められます。耳下腺だけでなく、他の大唾液腺(顎下腺、舌下腺)の腫れが認められる場合もあります。臨床症状と過去の感染歴などから診断しますが、正式には血液検査で原因となるムンプスウイルスの抗体価を測定することになります。しかし、血液検査の結果が判明するのは採血後1週間程度かかります。唾液腺の腫れが出現して5日間を経過し、かつ全身状態が良好になるまで、感染力が高いため出席停止です。稀に合併する難聴や性機能障害の後遺症が問題となるため、ワクチン接種(任意)による予防をお勧めします。
首にも全身にも、たくさんのリンパ節(リンパ腺)があり、日々外界からの細菌やウイルスなどと戦っています。病気の勢いが強かったり、感染が長引いて膿を作ったりすると首が腫れて痛みを伴ってきます。悪性腫瘍(癌の転移や悪性リンパ腫等)の場合は、腫れた部分に痛みを伴わないことが一般的で、腫れて痛みを伴う場合はリンパ節炎である可能性が高いと考えられます。問診や触診でもある程度判断できますが、採血検査や当院にある超音波(エコー)検査を併用することで診断が確実になります。通常内服での治療で改善が見込まれますが、程度がひどかったり膿を作っている(膿瘍)と、入院での点滴治療や排膿術(針を刺したり、切開したりする)の必要があります。
甲状腺は、首の前の真ん中にあり、のどぼとけよりも少し下(足側)に位置しています。通常ではあまり触れることはありませんが、腫瘍ができたりバセドウ病や橋本病などで長く炎症が起きていると、腫れてきて触れるようになります。甲状腺にできる良性腫瘍として、腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫、プランマー病などが挙げられますが、甲状腺の良性腫瘍の手術を考慮する状態として、①3㎝以上の腫瘍、②持続する増大傾向がある、③腫瘍による症状(飲み込みにくさ、呼吸苦等)がある、④ホルモンを分泌する機能性結節である、⑤悪性が否定できない、⑥縦隔甲状腺腫瘍になるおそれがある、などが挙げられます。いずれにしても、まずはどういった種類のものなのか、しっかりと診断する必要があります。
耳下腺にできる一番多い良性腫瘍は多形腺腫です。ゴムボールのような硬さで、女性に多く、通常片側に発生します。年次経過でゆっくりと大きくなりますが、10年間の経過観察で約3%程度悪性腫瘍に変化してしまうという報告があります。2番目に多いのがワルチン腫瘍です。多形腺腫より柔らかく、ブヨブヨとした腫れ方をしています。喫煙が原因でできるため、多くは壮年期の男性に発生し、両側性のことが多いです。こちらは悪性化の報告はまずありませんが、ときに炎症を起こして急激に腫れたり痛みを伴ったりします。
顎下腺に発生する良性腫瘍はほとんどが多形腺腫です。顎下腺に発生するものも、耳下腺に発生するものもその性質は同じであり、基本的には切除・摘出が望ましいです。顎下腺腫瘍は約半数が悪性、舌下腺腫瘍はそのほとんどが悪性といわれており、より注意が必要です。
副甲状腺腫瘍、頸部リンパ管腫、頸部血管腫、正中頸嚢胞、側頸嚢胞、頸部脂肪腫、頸部神経鞘腫、頸動脈小体腫瘍、孤立性線維性腫瘍、キャッスルマン病など、意外と多くの種類があります。すでに他院で診断されている方でも、相談や疑問などあれば、当院に是非一度おいでください。
のどは頭側から上咽頭、中咽頭、下咽頭と分けられます。上咽頭は鼻の突き当りから口蓋垂(のどちんこ)まで、そこからベロの奥の付け根(舌根部)までを中咽頭とよび、喉頭を除いた食道の入り口までを下咽頭と呼びます。それぞれに癌が発生することがありますが、特に飲酒や喫煙が原因となって病気の予後(治りやすさ)が悪いのが下咽頭癌です。下咽頭癌はその原因となる生活習慣から他の食道癌、肺癌、胃癌などとの合併が多いこと、症状が出るまで健診等で見つかりにくいこと、リンパの流れが豊富でリンパ節転移を起こしやすいことなどが予後不良の原因です。特に生活習慣に心当たりのある方、食道癌等の治療歴のある方は最低1年に1回はのどの検診を受けることをお勧めします。中咽頭癌は最近、飲酒や喫煙以外にヒトパピローマウイルスが原因で比較的若い方(40~50代)にも発生することが知られるようになりました。(ヒトパピローマウイルスは子宮頸癌の原因ウイルスとして有名ですが、中咽頭癌予防の観点でのワクチン接種は現在適応外です。(2022年11月現在))ウイルスが原因で発生する中咽頭癌は、抗がん剤や放射線治療に対する反応が良好で比較的治りやすいものになります。上咽頭癌も、EBウイルスが原因で発生するといわれています。欧米と比較して、東南アジア諸国に在住の方や渡航歴のある方に発症する頻度が多いです。手術が難しい部位のため、抗がん剤や放射線での治療が行われます。成人で片側の滲出性中耳炎がある場合、上咽頭癌を疑って鼻の奥をしっかり観察する必要があります。
声を出す声帯やそれを開閉するための披裂軟骨、上方(頭側)にある喉頭蓋などを総称して喉頭と呼び、そこに発生する癌を喉頭癌と呼びます。こちらもやはり飲酒や喫煙などが原因で発生する癌です。声帯にできる癌は、声が嗄れたりして早期に発見されやすいですが、それ以外の喉頭にできる癌はある程度進行するまで症状がなかったり比較的リンパ節転移を起こしやすかったりして予後が悪くなります。早期は放射線だけでの治療やレーザーを用いた切除術が可能ですが、進行例や再発例で喉頭摘出術を行わなければならないことがあります。
口腔癌の代表が舌癌です。同じ場所ばかり歯で噛んでしまう場合や、慢性的に擦れている場合、歯並びが悪い場合にその原因歯と接触する粘膜に癌が発生します。歯磨きをさぼって歯がガタガタになっている口腔内不衛生状態の方にも発生しやすいです。口腔癌は骨に囲まれているため放射線の効果が得られにくく、基本的には手術主体の治療となりますが、手術後の咀嚼・嚥下・発声機能の低下を補うために、いろいろな口腔内装具を使用したり、体の他の部分から筋肉や皮膚を移植する必要があることが多いです。
甲状腺癌には種類があり、乳頭癌・濾胞癌・髄様癌・未分化癌が代表的です。このうちほとんどが乳頭癌で、非常に進行が遅く、症状を起こしにくく、命の危険にかかわることの少ない癌です。乳頭癌は1㎝以下のサイズであれば治療をせず経過観察も許容されるほどです。しかし一方で他の3種類は非常に進行が速いものや肺転移などを起こしやすいものもあり、しっかりと検査・診断を行うことは重要です。
おたふく風邪の時に腫れる耳下腺、左右のあごの裏にある顎下腺などを大唾液腺と言います。咽頭癌の飲酒喫煙などと違って明らかな原因はわかっていませんが、最近では遺伝子異常が誘因として報告されています。また、「以前からあった耳の下のしこりが、最近急に大きくなってきた」ということがあれば、以前からあった多形腺腫が癌化したことなどを考える症状と言えます。唾液腺癌の発生頻度は非常に低く、決まった抗がん剤がないこと、放射線での治療効果も限定的であることが問題となります。唾液腺腫瘍の悪性3徴候(症状)といわれる、皮膚の発赤・疼痛・顔面神経麻痺を伴っている場合は、すぐにご相談してください。
悪性リンパ腫はリンパ球という血液の細胞が癌化したもの(白血病などと似ています)ですが、首のリンパ節にしこりができて、そこの検査を進めることで血液の癌である悪性リンパ腫が見つかるケースも多いです。悪性リンパ腫にも色々な種類がありますが、基本的には抗がん剤での治療となり、時に放射線治療も用いられます。手術による治療は通常行われません。